森山高至さんの著書において、建築のファスト化の3つの条件の1つに「簡単な計画」が挙げられている。
「簡単」とは「頭を使わない」ということである。
逆の観点で言えば、消費者が賢くなり頭を使うことになると、ファスト側の人間には不都合になることを意味している。そこで見えてくる大きな問題は・・・・。
「ハウスメーカーは、顧客を愚民にしていないか?」
愚民化という言葉はキツく聞こえるかもしれませんが、ここでは「判断力・選択力・思考力を持たせないようにする構造」と定義して、分析してみたいと思います。
■ なぜそんな構造が生まれるのか?
ハウスメーカー・パワービルダーは、資本も規模も大きく、合理的に安定した住宅供給を目指す組織です。 そこで最も重要視されるのは、「効率化と均質化」。
つまり「現場ごとに異なる設計者・顧客の感性に依存しない仕組み」が求められます。
そのため、顧客を「考えすぎない状態」に導くことが戦略的に“都合がよく”なってしまうのです。
以下に、私が感じている4つの愚民化戦略を紹介します。
🟥 1|【情報遮断型】
「必要なことは、こちらで整理していますから」
これは多くの営業マンが使うフレーズです。
一見すると親切ですが、お施主さんが“比較・検討・理解”する機会を最初から奪うようにします。
パンフレットに書かれている、自社のウリの情報だけの説明に終止し、法規や温熱、構造についての深掘りは最小限です。もちろん他の優れた建築事例も 「知らなくていい」流れにして、他に目が移らないようにする。ユーザーの情報不足がキープされて判断力が育ちません。
🟧 2|【多数派誘導型】
「ほとんどの方がこれを選ばれていますよ」
この言葉も、決して悪意があるとは言えません。日本人の同調圧力、空気を読む習性をうまく利用した言葉です。
ファスト量産会社は、マーケティング上の多数に無難に受け入れられる商品を商品化しているために、誘導をしているだけなのです。
でもこれは、“あなたの暮らしに合っているか”を無視した判断誘導です。
**「みんなが選んでいる=正しい」**という安心感を与え、
個別の暮らしへの思考や対話を封じていきます。
🟨 3|【標準化洗脳型】
「うちの標準仕様は、これで充分です」
“標準仕様”という言葉には、一種のいちばん正解っぽいねという幻想があります。
でも本来、住宅に「標準」などありません。
しかし、住宅を商品化するためには、標準仕様が必要になります。
さらに決まったレールで進んでもらいたいがゆえに、標準外の仕様はオプション扱いにして、非常に割高な価格設定にしていることもよくあります。営業マンは、オプションが多くなると予算超過になり、契約にならなくなるので「高くなりますよ」とビビらせて、思いとどまらせようとする。
「住まい手が何を大切にするか」によって、
素材もグレードや設備も、さらにはプランニングもすべて違ってくるべきですが。
それを「会社が決めた最適値」に押し込めることで、
施主の発想の幅を狭め、「考える必要のない家づくり」へと導きます。
🟦 4|【感情麻痺型】
「もう考えるの疲れましたよね?あとは私たちにお任せください」
これは後半戦、つまり打合せに疲れた頃に出てくるトドメの一撃です。
ここで多くの施主が「お願いします」と言ってしまいます。
(長時間面談で脳を疲労させ、もうこの苦しみから逃れたい心理を利用して調印を促す。営業マンのクロージングテクニックとして、みんな営業マンの世界では常識ではないだろうか?)
しかしこれは、「任せていいところ」と「任せてはいけないところ」を見極める大事なフェーズ。
ここで一気に設計の主導権を委ねてしまうと、家の“意味”が設計者や会社側に奪われてしまうのです。
■ 顧客を“考えさせない”ことで、誰が得をするのか?
それは当然、ハウスメーカーです。
- 設計が早く進む
- クレームが出にくい(“自分で決めてない”ため)
- 営業スキルで制約を主導できる
- 標準仕様で粗利を確保できる
つまり、施主に考えさせないほうが、「事業」としては効率がいい。
でもその先にあるのは、施主が「わたしの家ではない」と感じてしまう住宅です。
それは果たして、幸せな家づくりでしょうか?
世の中がファスト住宅だらけになっているのは、このような量産化を狙っている企業サイドの要因と、頭を使いたくないお客サイドにも要因があると考えます。
■ これからの住宅は「選ぶ」から「関わる」へ
私たちは、住宅を“消費する”時代を抜け出す必要があります。
“家を買う”ではなく、“暮らしを構想する”。
それこそが本来の「発注者」の姿です。
そして、そんなしっかり自分の頭で考える施主が、対話しながら一緒につくる家こそが、
時間を超えて、住み継がれ、愛される本物の住宅だと信じています。
✅ 最後に問いかけたいこと
あなたが今検討している家づくりは、
プロセスの中で、あなたが主人公として主体性を持って考えていますか?
その伴走者である住宅会社は適格ですか?
あなたの価値観や生活感覚は、
その図面の中に、ちゃんと刻まれていますか?
もし、少しでも不安を感じたら──
それは「考えることをやめていないか?」を、立ち止まって見直してみてください。