久しぶりに新潟県から呼ばれて、県庁へ足を運びました。
環境部から「雪国型ZEHをどうすればもっと普及できるのか」という相談を受けたのです。
新潟県独自のエコハウス基準、それが「雪国型ZEH」です。

雪国型ZEHとは?
「2025年から断熱等級4が義務化されますが、それでは性能不足です。
そこでHEAT20のG1以上を基準にしましょう。
できれば太陽光パネルも設置してください。ただし積雪の多い地域では必須条件としません。
新潟県は、このような住宅を推奨しています」
まとめれば、これが雪国型ZEHの考え方です。
背景と現状
新潟県は2050年までに温室効果ガス排出をゼロにすることを目標に掲げています。
そのためにゼロエネ住宅の普及を進めたいのですが、国の定めたZEH基準は新潟(5地域)でUa値0.6。
2030年の義務化基準を見据えても、この数値は“最低ライン”に過ぎません。
そこで新潟県は独自に、より厳しい基準であるHEAT20 G1(Ua値0.48)を雪国型として設定しました。
導入から3年が経過しましたが、県は普及の伸び悩みを感じており、私たち新住協にも意見を求めてきた、という経緯です。
他県の事例
他の自治体でも独自基準を設けています。
中でも鳥取県は「NEST基準」が県民の家づくりの物差しとして広く浸透し、中古住宅流通まで一気通貫で高性能住宅のブランドとして機能しています。

長野県も、森林資源が豊富な地域性を生かし、県産木材の利用を組み込んだ独自制度を運用しています。
こうした先進事例と比べたとき、新潟の制度の違いと課題が見えてきます。
提言① グレード分けの導入
現在の制度は性能を一律に規定しているだけで、グレード分けがありません。
HEAT20 G1はすでに“最低ライン”となり、性能の高い家という評価は得られなくなっています。
そこで、G1・G2・G3を「B・A・S」といった3段階に明示するべきです。
寿司屋で「松竹梅」があれば多くの人が真ん中を選ぶように、行動心理で性能の底上げが期待できます。
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特に推奨したいのはグレードA(G2相当、Ua値0.34)。
ここまで行けば確実に省エネで、住まい手の満足度も高まります。
さらに、段階ごとに小額でも補助金を設定してはどうでしょうか。
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B:補助なし
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A:10万円
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S:30万円
これが事業者と施主のインセンティブになります。
提言② 夏の日射遮蔽を評価項目に
冷房負荷を左右するのは断熱性能ではなく日射遮蔽です。
そこで指標となるのがηAC(冷房期の平均日射熱取得率)。値が低いほど遮熱性能が高いことを意味します。

新潟県独自にηAC基準を設け、評価項目に加えるべきです。
これにより「冬だけでなく夏も快適な家」という、他県に先駆けた制度設計になります。
(QPEXなどの省エネ計算ソフトでは外付けブラインドや窓種ごとの評価も可能です。)
パッシブな設計へと誘導することと、すだれ・アウターシェード・外付けブラインドなどが新築時や住んでからでも付けることを推奨すべきでしょう。
提言③ 認定・表彰制度の創設
「この住宅は新潟県がおすすめします」というお墨付きを与える認定制度を設けるべきです。
省エネ義務化で外皮性能の計算は既に必須になっているので、認定の仕組みは容易に導入できます。
また、登録制としている工務店や設計事務所に実績をフィードバックし、優れた事業者を表彰する制度を加えれば、前向きな取り組みが自然に広がります。
予算をかけずとも競争原理でレベルが上がっていく仕組みです。

まとめた3つの提案
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グレード分けで性能向上を促す
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夏の遮蔽性能を評価に加える
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認定制度と表彰で普及を後押しする
これらはシンプルで効果的な提案だと思います。
あとは担当者たちが実行力を持てるかどうか。環境部と建設部の合同事業ゆえに、遠慮し合って前に進んでいない印象もあります。制度変更がどうなるか、県民とともに見届けたいところです。
追記:夏の現実とこれからの課題
皆さんもお気づきの通り、近年は3年連続で記録的猛暑が続き、冷房エネルギーが急増しています。
かつては夜になれば外気で建物を冷やせましたが、今では熱帯夜でエアコンなしでは眠れません。
結果として、新潟市でも暖房より冷房エネルギーの方が多い「逆転現象」が起きている物件も多発している可能性があります。
従来の「冬の省エネ」一辺倒では不十分で、夏対策を加えて初めて本物のエコハウスになります。
新潟県は、理想的な住まいの姿を明示し、先導的な取り組みを打ち出すべきだと考えます。

