高断熱住宅の「歴史」と「今」を知ると、家づくりの見方が変わります
「高断熱・高気密の家って、ここ最近の流行でしょ?」
そう思っている方も多いかもしれません。
実はそのルーツは北海道。
そして本州にきちんとした形で入ってきたのは、まだ30年ほど前のことです。
今日はその流れと、今の「ちょっと歪んだ高断熱ブーム」、
そして私たちが大事にしたい“本来の省エネ住宅の考え方”について、ざっくり整理してみます。
1. 高断熱住宅は北海道で生まれた
高断熱・高気密の住宅は、厳しい寒さの北海道で発明されました。
長い冬を、できるだけ少ない燃料で、暖かく快適に過ごすための「必然」から生まれた技術です。
本州にその文化が本格的に入ってきたのは、今から約30年前。
北海道で圧倒的なシェアを持っていた土屋ホームが、「マインズホーム」という名前で福島に支店をつくり、その後、新潟にも進出してきました。これが本州での高断熱住宅の初期事例のひとつです。
当時の本州の家は、
- 掃き出しの大きな引き違い窓が当たり前
- 窓は「大きいほど良い」「開放的で明るいほど良い」
という価値観が主流でした。
そこに突然、北海道スタイルの家が登場します。
- 窓は縦すべり出し窓が中心
- 南側以外は窓が少なめ
- 外観も室内も「窓が小さく、やや控えめ」な印象
当時これを見た人たちは、正直こう感じたようです。
「気密住宅って、なんだか窒息しそう」
「窓も小さいし、暗くて窮屈なんじゃないの?」
その結果、当時は高断熱住宅が一気に一般化することはありませんでした。
2. 東北の寒冷地から、じわじわと定着
それでも、東北の寒さの厳しい地域では状況が違いました。
- 冬の寒さが本当に厳しい
- 灯油・ガスなどの燃料費が家計にずっしりのしかかる
この「現実的な痛み」があった地域では、高断熱・高気密のメリットが分かりやすく、着実に広がっていきます。
「暖かくて、光熱費も下がるなら、それはいいよね」
という、ごくまっとうな理由からです。
3. 「パッシブ設計」が広まったのはここ10年くらい
今から10年ほど前、「パッシブ設計」という考え方が一気に知られるようになりました。
パッシブ設計とは、
機械に頼る前に、まず“太陽”と“方位”を味方につける設計 のことです。
冬の太陽は低い位置から差し込みます。
その熱をしっかり室内に取り込めば、暖房エネルギーを減らせます。
そのためのセオリーはシンプルです。
- 南側:窓面積を大きくして、太陽熱を取り込む
- 東・西側:夏の暑さの元になるので、なるべく小さく控えめに
- 必要に応じて、庇(ひさし)や外付けブラインド、植栽などで夏の日射をカットする
つまり、
「どの方位に、どれくらい窓をつくるか」
ここにメリハリをつける設計手法が、
省エネ住宅の“王道”として定着していきました。

この家は、エコハウスの神様「西方設計」とのコラボ事例ですが、秋田県の能代市をベースに活動される、西方さん曰く。
「日本海側の冬の空は、いつも曇天で気が滅入る。だから、窓を大きく取り、明るい室内にしたい渇望があるのです。 エコも大事ですが、明るさは心の健康からも大事ですね。」
4. では、いま住宅業界はどうなっているか?
ここからが本題です。
現在の住宅業界では、大きく2つの動きが見えてきます。
① 数字だけを競う「超高性能」グループ
省エネ基準が厳しくなり、Ua値(外皮性能の数値)や、
HEAT20のG1・G2・G3といったグレードが広く知られるようになりました。
その結果、
- 「断熱等級7」
- 「HEAT20 G3対応」
といった“数字だけ”を前面に出してPRする会社が出てきました。
地域の工務店でも、その流れに乗るところが増えています。
しかし、その副作用として、
- 窓をなるべく小さくしないと、良いUa値が出ない
- 壁に比べて性能の下がる窓の面積を減らす。加えて窓の数自体も少なくなる
という設計になりがちです。
結果として、
「高断熱・高気密だけど、窓が小さくて、昼間でも少し薄暗い家」
が量産されてしまっているのが現実です。

提案している設計側の発するトークは、
「どうせ皆さん、昼間は仕事でいないでしょ?
夜暖かければ、それで十分じゃないですか?」
という割り切りも見え隠れします。
② 性能から距離を置く「大手メーカー」グループ
一方で、積水ハウスに代表される大手プレハブメーカーの多くは、
あえて「性能競争」から距離を置いているようにも見えます。
- 広大な吹き抜け
- 天井までの大開口サッシ
- ガラス張りの大空間リビング
広告写真を見れば一目瞭然で、
「これぞ我が社のスタイル」と言わんばかりの“全面ガラス張りの豪邸”。
ただし、ここまで窓を大きくすると、
- どうしても断熱性能は落ちます
- 冬は窓際がヒンヤリしやすい
- 夏は日射のコントロールを誤ると、室内が一気に暑くなる。
(そこで軒の出はしっかりと出しています。)
という物理的な現実からは逃れられません。
そこで彼らはこう言います。
「大きなソーラーパネルを載せているので、光熱費はトータルで増えていません」
「全館空調で温度差をなくしているので、快適性も問題ありません」
つまり、
- エネルギーの“使い方”がやや多めでも、創エネと空調設備で帳尻を合わせる
- 建物そのものの素の性能より、“機械の力”で整える方向
とも言えます。
5. 小さい窓で嫌われ → 南だけ大きくなり → また小さい窓へ?
話を整理すると、流れはこうです。
- 北海道スタイルの「窓の少ない高断熱住宅」が登場し、
→ 当初は「なんだか窮屈」と敬遠された。 - その後、パッシブ設計の理解が広まり、
→ 南側は大きな窓、他の方位は控えめという“メリハリの効いた窓計画”が王道に。 - ところが最近は、
→ Ua値の数字を良く見せるために、再び窓を小さくする流れが一部で強まっている。
→または、その逆張りでメカメカした、冷たさと温かさの混ざった家も登場。
このように2極化が観察されます。
せっかく「太陽を上手に使いながら、窓のある気持ち良い暮らし」を目指してきたのに、
見かけの数値だけを追いかけるあまり、また窓が小さくなってしまっている。
そんな、ちょっと残念な状況です。
6. これからの家づくりの「王道」はどこにあるか?
では、こうした流行や極端な競争に対して、
私たちは何を基準に家づくりを考えればよいのでしょうか。
結論はシンプルです。
やはり「パッシブ設計」が王道だろう
ということです。
パッシブ設計で大事にしたいこと
- 太陽の動き(1年を通した高さ・方位)をきちんと理解する
- 敷地の条件(隣家の影、道路、眺望、風の抜けなど)を読み解く
- それらを踏まえて、
- どこにリビングやダイニング・キッチン・寝室を配置するか(ゾーニング)
- どの方位に、どれくらいの窓をつくるか(窓計画)
を決めていく
そのうえで、
- 必要十分な断熱性能をきちんと確保する。
- パッシブ設計に高断熱が加わると、冷暖房負荷が小さくなる。
そうなると冷暖房設備はあくまで“補助役”になり、シンプルになる。
これが、長い目で見たときの
- 本当の意味での経済性(光熱費だけでなく、設備更新費も含めたトータルコスト)
- 日々の快適性(足元の冷え・窓際の暑さ・まぶしさの少なさ)
- そして「暮らし心地」という目に見えない価値
を両立させる、一番まっとうな道だと考えています。
7. これから家を建てる人へのアドバイス
最後に、施主さん側のチェックポイントとして、こんな質問をおすすめします。
打ち合わせの場で、こんな話が出ていますか?
- 「この敷地だと、冬の南の陽射しはどのくらい入りますか?」
- 「夏の西日や東からの朝日を、どうやって遮りますか?」
- 「南の大きな窓に対して、庇や外付けブラインド、植栽などはどう計画しますか?」
- 「Ua値や断熱等級だけでなく、窓辺の体感温度や眺めはどうなりますか?」
もし打ち合わせの会話が、
- 数字(Ua値・等級)の話だけ
- 設備(太陽光・全館空調)の話だけ
で終わっているとしたら、
そこにはパッシブ設計の視点が欠けているかもしれません。
高断熱・高気密そのものは、とても価値ある技術です。
しかし「性能数値を良く見せるために」窓を最小にすることの弊害に注意ででした。
昼間なのに薄暗い。性能ほどに燃費が良くはなっていない。
それだと困ったものです。
