SNSで噛み合わない「高断熱論争」――なぜ議論がすれ違うのか?

相模 稔相模 稔

SNSで噛み合わない「高断熱論争」――なぜ議論がすれ違うのか?

最近、SNS上で「住宅性能」をめぐる論争をよく目にします。
ざっくり分けると、次の2派に分かれます。

  • 性能が大事派:地域工務店や、その施主・関係者が中心。 
  • 性能はそこまで必要ない派:ハウスメーカー推しの人たち、そして一部の材木供給者などもこちらに含まれる。 

いずれも真剣ですが、この議論、解像度を上げないとまったく噛み合いません。

■「高性能」とは何を指すのか

まず前提として、「高性能」とは何を意味するのかを明確にしなければなりません。
ここでは単純化のため、外皮性能(Ua値)=断熱性能 に絞って考えましょう。

「そこまで性能は必要ない」という意見を聞くとき、では一体どのレベルまでが“必要十分”なのか?
その性能の住宅では、どんな条件下でどの程度の室内環境 になるのか?
こうした点を定量的に掘り下げないと、感覚論で終わってしまいます。

■地域差と前提条件

暖房負荷は地域の気温や日射条件によってまったく異なります。
さらに以下のような要素が複雑に絡み合います。

  • 建物の日射取得(パッシブ設計の有無) 
  • 冷暖房システムの種類と運転条件 
  • 気密性能(C値)による隙間風の影響 
  • 換気方式とそのバランス 

最終的な快適性や燃費は、これら複数パラメータの総合結果で決まります。
しかし、それでも建物の断熱性能は6割以上を左右する基盤要素と言って差し支えないでしょう。

■議論を混乱させる「ありがちなパターン」

① 論点を散らす人

たとえば「この地域でどの断熱グレードが妥当か?」という議論で、
「気密や換気も関係するから一概には言えない」と横槍を入れる人がいます。

もちろん要素は多様ですが、ここでは前提条件をそろえて比較する議論のはず。
「標準プラン」「C値1.0前提」などを共有しているにも関わらず、
論点をずらして話を複雑にするのは、ただの混乱要因です。

② 主観で合否を語る人

「以前の家よりずっと暖かくなった」「思ったより寒かった」など、
体感だけで性能を語るパターンです。

もちろん“満足していればそれでいい”という立場もあります。
しかし議論としては、人の感情や体質を基準にしては比較になりません。
着衣量や補助暖房でいくらでも調整できる話です。

③ 高断熱の“こじつけデメリット”

「高断熱住宅は一度オーバーヒートしたら冷めにくい」という意見。
これは部分的には事実ではあるが、むしろ日射遮蔽ができていない家が悪いのであって、
高断熱化が悪い要因ではないのか事実。
このようなことは、
実際に住んだことがない人の想像で語られる批判も多い。

現実には、冬に暖かい家が支持される理由を見れば明らかです。
断熱性=保温性が、居住者の満足度のベースになっている。
デメリットよりも圧倒的にメリットが上回っています。

④ 「暖房を強くすれば同じ」論法

「断熱が低くても、暖房を強めれば室温は同じ」という意見。
確かに温度計の数字は並ぶかもしれませんが、
燃費は2〜3倍になり、壁・床・窓の表面温度が低く、体感はまるで別物です。

■なぜ噛み合わないのか

「高断熱でなくても良い」と主張する声の多くは、
ハウスメーカー関係者、つまり営業トークの延長線上にあるケースが目立ちます。

しかし住宅の温熱環境は物理現象です。
断熱が良ければ熱が逃げにくく、温度変化が穏やかになる――
これは中学校の理科で習うレベルの話。

つまり、科学的な因果関係を疑う余地はないのです。
にもかかわらず、基礎教養もないまま議論に加わる人が多く、
SNS上では永遠に噛み合わない。

■まとめ

断熱性能の是非を語るなら、まず前提条件を揃えること。
そして感覚ではなく物理とデータで語ること。

住宅の温熱は「思想」や「好み」ではなく、
科学で説明できる世界です。

基礎教養と論理の筋道を持って語り合える場が、
これからの住宅業界にはますます必要になってくるでしょう。

 

相模 稔
代表取締役

相模 稔

オガスタの社長。 工務店経営のほか講演活動なども行う。 アメブロ「おーがにっくな家ブログ」もよろしく。

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